本日の1枚 キリンジ

 キリンジ / Ten (CD)

Ten(初回盤)

Ten(初回盤)

 
 キリンジ10枚目のアルバム。堀込泰行が脱退する、という非常に残念なニュースの後、兄弟として最後のアルバムであります。
 とてもシンプルなバンド・サウンドは、肩透かしな感もあり、納得な感もあり。ラストにして、世界観をストレートにぶつけてきた感もあり。
 
 とりあえず冒頭の『きもだめし』は、爽やかなアコギやグルーヴィなピアノに、気の抜けたでもどこか哀愁と捻くれ感のある歌声がいかにもキリンジな曲。
 続く『ナイーヴな人々』は、オールドタイミーなユルさを漂わせつつも、微妙に転調を続けるアレンジが実はスリリングであったりする、これもある意味でいかにもキリンジな曲。
 『仔狼のバラッド』などは、捻くれた歌詞がいかにもキリンジ
 そう、やっぱ聴き込むほどにキリンジのアルバムなのである。当たり前ですけど。
 
 ビーチ・ボーイズ的なコーラスが的確にハマる『阿呆』と、普通にイイ曲なラストの『あたらしい友だち』がお気に入りです。
 あと、気になったのはインストの『dusty spring field』。まずはタイトルにグッときましたが、音もなんだかトラッド風で素敵な雰囲気でした。
 
 
 ナイーヴな人々
 

本日の1枚 Lenny Le Blanc

 Lenny Le Blanc / Lenny Le Blanc (CD)

レニ―・ルブラン

レニ―・ルブラン

 
 ルブラン&カーのレニー・ルブランが、1976年にソロでリリースしていたファースト・アルバム。新・名盤探険隊シリーズからの再発で、帯には「ソフト・ロックの隠れた名盤」なんて書いてありましたが、どちらかというとブルー・アイド・ソウルっぽさを感じました。
 しかし、基本はカントリー・ロック的であり、そこにグルーヴィなリズム、とろーんとしたアレンジが加わり、なんともユルユルな味わいがあります。
 
 冒頭の『Desert Cowboy』は、思い切りカントリーな曲なんですけど、呑気だが繊細なアレンジが素敵です。
 グルーヴィなイントロから弾ける『Lady Singer』、ゆるーくカヴァーした『Rag Doll』、爽やかなカントリー・ロック『Hound Dog Man』などなど、地味にイイ曲がいっぱい。
 お気に入りは、とろーんとしたグルーヴィさの中に、美しいハーモニーが光る『Rainy Nights』。まぁ、ルブラン&カーの『Falling』的な良さではあるんだけど。
 
 
 Sharing The Night Together
 

ここ数日で読んだ3冊

 「オール・クリア1」

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 第2次大戦中の英国にタイムトラベルした未来の史学生3人を描いた「ブラックアウト」の続編が出た、と思ったら2分冊ってなによ。
 激しい空襲下で未来への帰り口を探す3人を襲う微妙な時間のスレ違いなど、ハラハラドキドキな展開は素敵なんだけど、アクション要素が中心となったことで登場人物たちのキャラが希薄になった感もあり。最終巻に期待。
 
 「憤死」
憤死

憤死

 タイトルの素晴らしさに参った。生理的に気持ちの悪い話をサラッと書くスタイル短編が4つ。ゾクッときながらも中途半端な読後感も、「毒」な味わいも悪くない。表題作はかなりお気に入りです。
 
 「安心毛布」
安心毛布

安心毛布

 エッセイのシリーズもこれで終わりらしい。ダラダラした日常を詩的に書き留める言葉のセンスにグッとくるもの多数。 
 

本日の1枚 Bermuda Triangle

 Bermuda Triangle / Bermuda Triangle (CD)

Bermuda Triangle

Bermuda Triangle

 
 米国のサイケ・フォークな男女デュオ。1977年に自主制作でリリースされた盤ですが、ボートラ6曲入りでCD化されています。
 可憐で気品のある女性ヴォーカルが素敵なんですけど、加えて、中途半端にぐにゃぐにゃしたサイケ感もまた素晴らしい。
 
 とりあえず、冒頭の『Night In White Satin』に参りました。ムーディー・ブルースのカヴァーですが、じめじめした暗さの神秘的なサウンドにどんよりとした男性ヴォーカル、そして神々しい女性ヴォーカルが光を射す。
 雰囲気は幻想的なんだけどメロディとかはキャッチーで、ダウナーなドリーミーさと親しみやすさが同居する逸品。
 もう1曲のカヴァーは、エアロスミスの『Dream On』。これもドリーミーなサウンドで、凛とした美しさの女性ヴォーカルがまた好いのです。
 
 微妙に野暮ったいサイケ感の『Right Track』、沈み込むようなサイケ感の『Wind』などと、静謐かつユラユラしたサイケデリックさが中心。
 と思いきや、いきなりハッピーにトラッド調の『Lark In The Morning / Swallow Tail』、ウキウキにカントリー調の『Louisiana』と、ガラリと世界観の変わる曲が挟まれるのもまた面白い。
   
 
 Night In White Satin
 

本日の1枚 Echo & The Bunnymen

 Echo & The Bunnymen / Porcupine (LP)

Porcupine

Porcupine

 
 先日のNHK FM「パンク/NW三昧」にて、いきなりキュアー『In Between Days』とエコバニ『The Cutter』がかかって、懐かしくてもうキュンときちゃいました。この2曲、自分の中ではニュー・ウェーヴを代表する青春の2曲!(異論は多そうですが)
 その『The Cutter』を収録しているのが、エコバニ3枚目のアルバム「Porcupine」。1983年のリリース。
 それまでは、ヴォーカルのイアン・マカロックはジム・モリソンに喩えられたり、音楽も「ネオサイケ」と分類されたりしており、まぁ実際にそんな音だったんですけど、このアルバムではいきなりポップになっちゃいました。
 硬質さと耽美さはそのままに、疾走感と聴きやすさが素晴らしく、高校生だった僕はすっかり魅了されました。
 
 何と言っても冒頭の『The Cutter』。ちょっと民族音楽風のメロディで始まり、疾走感いっぱいに駆け抜けるカッコ良さ。
 続く『Back Of Love』は当時一番好きだった曲で、その疾走感にゴージャスさを無理矢理に加えたようなアレンジ。その破れかぶれ感が素敵に思えてました。
 その他はまぁ、同様にポップで躍動感あふれる曲もあり、ネオサイケ的に陰鬱な曲もあり、ポジパン的だが録音の妙を活かした曲もあり。
 今聴いて面白いと思ったのはラストの『In Bluer Skies』。ヘンテコなリズムで始まり、ダンサブルでありながらどどーんと息をもつかせない展開を見せる。なんかでもモンド感が好いなぁ。
 
 
 Back Of Love
 

本日の1冊 平成工場日記

 昭和の終わりの頃、学生時代のこと。サークルの後輩S君の下宿で酒盛りをしている際に、酔ったS君が日記を付けていることを告白した。そして、チラッとだけ見せてくれた。
 堅物のS君らしく政治や哲学を語ったり、逆に女性への悶々とした想いを語ったり。
 面白かったのでさらに読ませてもらおうとお願いしたが、酔いの醒めたS君の首が縦に振られることは無かった。
 しかし、チャンスが訪れる。S君が正月に実家へと帰省したときに、S君の下宿の鍵をこじ開けることに成功、侵入して日記をGETしたのである。
 いや、実に面白かった。
 日常の暮らしぶりを綴る合間に、社会への不満を哲学的に考察しているかと思えば、斜め目線で自身の思い出を振り返ったり、そして前述のとおり、女性への悶々とした想いが迸る。
 四畳半の部屋の中で展開する、女性に対する熱々の妄想。かなり森見登美彦的な世界である。
 その素晴らしい世界を堪能できたことは良かったものの、日記を読まれたことに気付いたS君は怒った。半泣きで、怒った。
 犯罪であると僕に詰め寄り、人として許せないとまで言われた。
 すまなかった、S君。だが反省はしていない。だって、面白かったんだもん。
 
 それから20年以上の歳月が経った先月のこと、なんと、S君の日記が出版されたのである。

平成工場日記 高学歴ワーキングプアが垣間見た社会の一断面

平成工場日記 高学歴ワーキングプアが垣間見た社会の一断面

 S君らしく、タイトルはシモーヌ・ヴェイユの「工場日記」を捩ったもの。
 一時期S君は滋賀県の工場で住み込みでバイトしていたのだが、その体験が記録されている。
 工場での陰々たる日常を綴りながらも、勤務時間外は読書に耽り、音楽へ想いを馳せる。
 知人でなければ面白さは半減するだろうが、S君の不器用な動きや言葉が想像でき、それがいちいち可笑しい。
 合間にさらっと発せられる哲学的な問いもまた興味深い。
 校正の賜物なのか文章もすっきり読みやすく、ただ同じような日々を綴ったものに関わらずさくさく読めてしまう。
 いやいや、なかなか面白かったよ。
 
 しかし、しかしである。
 この日記には女性を巡る妄想が綴られていない。誤った方向に昇華された性欲も感じられない。
 それがなければ、S君の日記としては魅力が半減、いや100分の1にも満たないだろう。
 S君よ、女性への熱い想いを語れ。あるいは、学生の頃の日記を出版したらどうよ。