第15回セレクト合戦 勝手にレビュー 風来坊さん編

 参加していないセレクト合戦ですが、風来坊さんからもセレクトをいただきました。ありがとうございます。
 
 ショック太郎さんのセレクトについて「深い森」という語を感想に使いましたが、風来坊さんのセレクトにもその語がピッタリあてはまります。ショックさんのは楽曲そのものに「森」なイメージがあったのに対し、風来坊さんは1枚全体を通して「深い森」の奥深くに彷徨いこんでいくような感想を覚えました。
 薄闇の中で時折きらめく光に目が眩み、木々や小鳥たちのざわめきに人の気配を感じる。幻影に苛まれながら、ふと気がつけば深い闇に覆われているような、儚いドリーミーさに溢れたセレクトでした。
 
 とにかく、トータルとしての完成度の高さに驚きです。全曲気に入ってますが、まず1曲目から3曲目までの流れでもう参りましたよ。
 
 収録されている曲目は、
 01. Whispering Stars / 富樫雅彦
 02. 誰かが時を・・・Ⅰ / 高嶋みどり
 03. Watch Jetzt Auf! / 三輪眞弘
 04. Caroline, No / TICA
 05. たんぽぽのお酒 / Wechsel Garland & World Standard
 06. Here Before / Vashti Bunyan
 07. Aire Fresco / Sami Abadi
 08. 白い部屋 / 藤原大輔 feat. POKOPEN
 09. Fragile Fireworks / World's End Girlfriend
 10. 水晶の小さなロマンス / 吉松隆
 11. Heaven / Jimmy Scott
 12. On My Mother's Birthday / Robert Fripp
 
 (01) は、いきなりの怖い空気感にドキリ。静寂にポツリポツリと穴を開けていくパーカッション。深夜の墓地が似合う音楽ですね。
 (02) は、荘厳なコーラスが鳥の鳴きマネへと変化していく様が圧巻。四方八方からさざめきあう鳥の鳴き声に包まれ、深い森の中に迷い込んだような感覚を覚えます。
 (03) は、ピヨピヨとミニマルな電子音に宗教ナレーションが語られる。そのヘンテコなナレーションを聴くうちに、いつの間にかエクスタシーを感じている自分が怖ろしい。あっちの世界にいってしまった恍惚としたコーラスがまた素敵です。
 (04) は、もちろんビーチ・ボーイズのカヴァー。シンプルな演奏と柔らかなコーラスが心地良いですが、それにしても空気が重い。(03)までの怖い雰囲気のさざ波がスッと引いて、ポツンと取り残されたような感じ。
 (05) は、生楽器エレクトロニカの雄と鈴木惣一朗の競演。ヴィクセルお得意のオーガニックな質感にちょっと緩いエキゾな感性が付加されていて、南国の夜の浜辺に1人佇んでいるような雰囲気。
 (06) は、唯一の手持ちでした。南国の浜辺の(05)から、いっきに英国の森へ。けれど不思議と違和感がない。これは絶妙ですね。
 (07) は、アルゼンチンの音響派とのこと。万華鏡のようにキラキラと断片が移りゆきますが、LSD的な原色のトリッピーさはなく、色彩が淡いのでスンナリと美しさを味わえますね。
 (08) は、テクノとジャズを融合しているアーティスト。と聞いて敬遠してたんですが、こりゃモロに好みの音でした。Eberhard Weber あたりの淡白なジャズ・ロックに近い音。ポコペンさんの歌声もいいですが、個人的にはもう少し個性の薄い歌い方のほうが好みかな。
 (09) は、牧歌的な美しさが激しいドリル・ビートで蹂躙されていく。初期のスクエアプッシャーのような、狂気と美しさの紙一重な感覚がいいですね。
 (10) は、ただただ美しいピアノの演奏。現代音楽は全然知識が乏しい僕ですが、音数の少ないピアノの演奏に、言い知れぬ寂寥感や奥底の狂気を感じてしまいます。そろそろ(?)開拓していきたいジャンルであります。
 (11) は、なんか聴いたことあると思いきや、トーキング・ヘッズのカヴァーなんですね。
 (12) は、ロマンチックな美しさは夜が相応しい。(11)までで夜明けが近づいたのに、また真夜中に戻されてしまいました。まさに「nightmare」な締め括りですね。
 
 ↓風来坊さん本人の解説はこちら
 http://d.hatena.ne.jp/huraibou/20020105