本日の1枚

 V.A. / 細野晴臣トリビュートアルバム (CD)

 カヴァーを聴いて、元曲の良さを発見、あるいは再確認することがあります。このアルバムはまさにカヴァーとしての魅力と、それ以上に元曲の魅力を感じることができます。
 
 坂本龍一高橋幸宏矢野顕子コシミハルをはじめ、ヴァン・ダイク・パークスジム・オルークなど豪華メンバー参加のトリビュートアルバム。
 カヒミ・カリィ嶺川貴子、レイハラカミ、口ロロ畠山美由紀寺尾紗穂といった、僕の好きなアーティストがずらりと並んでいるのも嬉しいところです。
 
 はっぴぃえんど時代のモノから細野氏が手掛けた歌謡曲まで、選曲はかなりバラバラなんですが、なんとなく統一感があるのは、単にエレクトロニカ系のカヴァーが多いからだけではありません。
 どの曲にも「さらり」とした空気感を強く感じます。
 天才的なリズムやメロディに対する感覚を備えながらも、さらりと聴けてしまう細野氏の音楽。
 参加アーティストたちが、各々の手法でその魅力を再構築しているようで、そこにまた各々の細野氏への敬意を感じます。
 
 ディスク2枚組で、1枚目はいきなり本人が'73年に録音した『ろっかばいまいべいびい』のデモ音源で幕を開けます。
 ヴァン・ダイク・パークスによる『イエロー・マジック・カーニバル』は、カリビアン風味のモンド・テイストが面白いところ。
 坂本龍一嶺川貴子による『風の谷のナウシカ』は、生音エレクトロニカ系なサウンドに、彼女のウィスパー・ヴォイスが映える逸品。じわじわと静謐に湧き出る音の粒に、彼女のキュートな歌声がふんわりと浮かぶ様は、どこか幽玄な美しさも湛えています。1枚目ではこの曲がベスト。
 コシミハルによる『わがままな片想い』は、ピコピコとキュートなテクノ・ポップ。歌声もとってもキュートで、「ピ・ピ・ピ」とか言われるとたまんないですよ。
 リトル・クリーチャーズによる『ハイスクール・ララバイ』は、この盤の中で最も印象的な曲。あのファニーなテクノ歌謡を激渋くジャジーな演奏でカヴァー。「なー!」はどうするの、て聴く前はドキドキしたりしてました。
 スカパラによる『アブソリュート・エゴ・ダンス』は、スカのリズムにあわせて元曲に忠実に、そして熱くカヴァー。普通にいい感じ。
 高野寛原田郁子による『終りの季節』は、2人の歌声にグッと引き込まれました。以前、レイ・ハラカミがこの曲を見事にエレクトロニカにカヴァーしていたので、それと比べると音的には見劣りする感もありますが、歌声ではこちらに軍配が上がりますね。
 miroqueによる『Omukae De Gonsu』は、ゲーム音もキュートなおもちゃ系エレクトロ・ポップに。
 テイ・トウワナチュラル・カラミティによる『ハニー・ムーン』は、ゆるーくラウンジーなエレクトロ・ポップに。細野風に歌おうとするヴォーカルが微笑ましい。
 口ロロによる『北京ダック』は、ラテン歌謡風の味付けで合唱。面白さではピカイチで、ある意味で細野氏の影を一番強く感じました。
 ワールドスタンダード小池光子による『三時の子守唄』は、シンプルで温かみのある演奏に清涼な歌声が美しく映えます。エレクトロニカ系のカヴァーが多い中で、この素朴なカヴァーが逆に目立ってますね。
 
 ディスク2枚目はヤノカミ矢野顕子レイ・ハラカミ)による『恋は桃色』でスタート。そもそもこの2人が大好きなんで、文句なしの逸品でした。美しくリリカルな電子音と彼女の歌声との相性はやはり抜群。
 高橋幸宏による『スポーツマン』は、生音エレクトロニカな演奏でカヴァー。生ぬるく心地良い音に幸宏氏の歌声がまた心地良く響きます。
 畠山美由紀+林夕紀子+Bophanaによる『ミッドナイト・トレイン』は、軽やかなパーカションを中心にソウルフルな歌声が混ざり合う、爽やかにファンキーなカヴァー。
 コーネリアス坂本龍一による『Turn Turn』は、1音ずつブツ切りにされてるような電子音で構成されるエレクトロ・ファンク
 といぼっくすによる『銀河鉄道の夜』は、チェロなどの管弦楽器でカヴァー。細かい部分まで元曲に忠実な演奏でありながら、全く違う印象を受ける面白さは印象的。
 ウッドストック・ヴェッツ(ジョン・サイモン、ジョン・セバスチャン、ジェフ・マルダーらのユニット)による『蝶々さん』は、ルーツ・ミュージックにカヴァー。こういう音を普通に飲み込める細野楽曲にまた感心。
 ヴァガボンド片寄明人による『ブラック・ピーナッツ』は、トイ・ミュージック風にキュートにカヴァー。
 たまきあや+谷口祟+ヤマサキテツヤによる『風をあつめて』は、リコーダーでインスト・カヴァー。素朴な音色が優しく響き、ちょっと一服、て感じ。
 サケロックオールスターズ寺尾紗穂による『日本の人』は、70年代風の柔らかな演奏の中で、異彩を放つパーカッションに耳を奪われます。ヴォーカルは男女とも素敵で、リピートして聴きたくなる点ではこのアルバムで一番。
 ジム・オルークカヒミ+カリィによる『風来坊』は、アコギを中心にした穏やかな演奏にスティール・パンがエキゾな彩りを加える微妙なモンド加減が心地良いうえに、カヒミのウィスパー・ヴォイスがこの歌詞に絶妙に相性が良くて、まさに胸キュンな逸品でした。2枚目ではこの曲がベスト。
 そしてラストを飾るのは、またしても細野氏本人のデモ音源。本人で始まり本人で終わる構成も心憎いですね。
 
 どうやらトリビュート第2弾も予定されているようです。それも楽しみにしています。
 それにしても、ベストが嶺川貴子カヒミ・カリィ、という自分の進歩の無さがなんとも情けない・・・。