本日の1冊 虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

 米国特殊部隊の軍人が追うのは、後進国での虐殺事件に絡んでいると疑われる男。
 て聞いて、てっきりマッチョな軍事SFだと思いきや、読んでみると印象は全く異なりました。
 とても繊細なタッチで、どんな残虐なシーンもあっさりと描かれる。しかしそれは「クール」なのではなく、ある種の諦念を湛えた穏やかな視線を感じます。
 悪意なしに殺人を繰り返す日々に罰と許しを渇望する主人公と、愛のため虐殺を引き起こし続ける男。
 善悪の彼岸に、主人公は混沌とした世界の中で静かに家に閉じこもり、そして米国の平和の象徴たるピザを食べる。
 全編に漂う「死」の匂いには、なんというか、非常に切迫した「リアル」さが伝わってきます。
 文章の技巧力がどうとかいう以前に、ストーリー・テラーとしての能力に溢れていますね。