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 Predawn / 手のなかの鳥 (CD)

手のなかの鳥

手のなかの鳥

 
 清水美和子という女性SSWのソロ・プロジェクト
 まだ20代前半の女性らしい、ということ以外どんな方なのか全く知らないんだけど、そんなことはもうどうでもいいと思える素晴らしいアルバムであります。
 ちょいとハスキーな歌声はウィスパー・ヴォイスに分類できそうな声質でありながら、とっても瑞々しく可憐でいて力強さもあり、そして穏やかで愛情深くあると同時にどこか哀しみや諦念なども感じます。
 そんなヴォーカルと同様に、楽曲もまた素晴らしい。アレンジもすべて本人が手掛けているそうで、そのセンスは驚愕ものであります。
 
 米国ルーツ・ミュージック的な佇まいもあり、静かな曲でありながら「ロック」な空気を醸し出す『Lullaby From Street Lights』を聴くと、「和製ノラ・ジョーンズ」てレコ屋の謳い文句もまぁ肯けます。
 しかし、続く『What Does It Mean?』の冒頭の儚げなコーラスを聴いただけでも、そんな謳い文句に収まりきれない、彼女の底知れぬ魅力を感じます。
 この曲のアコギで紡がれるこの雰囲気、なんとなくニック・ドレイクを思い浮かべてしまいました。
 
 そしてリード曲の『Suddenly』は、完璧なほどの名曲。
 イントロのアコギだけでも即死級の素敵さですが、キュートだが力強さも秘めた歌声でボソボソと語りかけられると、周りの時間が停止するかのように耳を奪われ、思考が止まってしまいます。
 繊細なアルペジオと幽玄な空気感には英国のアシッド・フォークな味わいもあり、アコギと歌声だけで紡がれる世界観の深さを感じ入ります。
 
 『Custard Pie』は一転して米国的で、そして「パパパパー」なコーラスなんかにはジャジーさもあり。続く『Little Green』はプリAORな雰囲気もあり、アコギの響きには英国的な陰影も感じたり。
 オルタナティヴなロックの原石たる『Apple Tree』、音数の少なさに反して色合いの深い『Insomniac』と、まさに捨て曲無しの名盤であります。