本日の1枚 寺尾紗穂

 残照 / 寺尾紗穂 (CD)

残照

残照

 
 5枚目のアルバムにして、初のセルフ・プロデュースとなる作品。NONA REEVES小松シゲルSAKEROCK伊藤大地などが参加しています。
 レコ屋の謳い文句に「和製ローラ・ニーロ」と書かれていることが多いが、その形容は決して間違っていないことを確認する。
 親しみやすいようですべてを拒絶している孤独感。逆に極限の孤独感から故に産み出されるポップさ。
 これは圧倒的に「都会」な感覚であり、同感覚の先人としてローラ・ニーロを挙げるのは正しい。
 
 さて、まずはアジアからの労働者を歌った『アジアの汗 (Controlled Version)』。ファニーに歌いかけるその内容はシニカルで、都会の暗部にさらりと切り込む姿勢が何気に凄いですね。残念ながらこのアルバム収録のヴァージョンでは歌詞の一部がマスキングされています。
 どこかキュートな『雌猫とわたし』からは、圧倒的な孤独を感じます。こういう感覚がローラ・ニーロっぽいのだ。
 
 柔らかなサウダージ感の『山帽子』、軽やかにラヴリーな『あなたの景色』、高速ピアノを核にしたファンキー・ディスコな『過ちの第一レーン』も好いし、
 『私が私を嫌いになった帰り道』は、ピアノのみのシンプルな美しさが穏やかなホーンの音色とともに柔らかなジャジーさに包まれていいく中盤に鳥肌であります。
 
 『蝉路』は蝉や線香花火とか、ある意味で反則攻撃なモロ泣きのバラード。さらに続く『骨壷』はこれもまた反則的に泣かせる曲で、「愛したあなたもひとかかえ」とか1つ1つズシンとくる言葉が素晴らしい。
 『家なき人 (Controlled Version)』は、軽やかなラテン風味で料理するのは『アジアの汗』と同様に労働者の曲でありました。
 ラストは生命を壮大に語って聞かせる『残照』。この圧力には黙って説教されておこう。