本日の1枚 Phew

 Phew / ファイヴ・フィンガー・ディスカウント(万引き) (CD)

ファイヴ・フィンガー・ディスカウント(万引き)

ファイヴ・フィンガー・ディスカウント(万引き)

 
 ソロ作品としてはなんと15年振りにリリースされたアルバム。参加メンバーは、ジム・オルークbikke山本精一石橋英子などなど。
 ところがこれ、カヴァー・アルバムなのですよ。
 僕のイメージの中では、Phewは音楽家であると同時に詩人であります。なので久々のソロ作が全て他人の曲で占められていることに一抹の不安と残念な思いを抱いておりましたが、さて実際に聴いてみるとやはりPhewの歌声は素晴らしくゾッとする。
 むしろカヴァーであるが故に、歌声の圧倒的な存在感を感じることができるのかもしれない。
 
 オープニングの『オーブル街』(フォーク・クルセダーズ)は、ピアノの淡い色彩に白黒な歌声と、枯れた喪失感は好いのですが、初めてこの1曲目を聴いてる時点ではまだアルバムに懐疑的でした。
 しかし寺山修司作詞の2曲目『世界の涯まで連れてって』を耳にして、その疑念が払拭される。ややニューウェーヴ・ファンキーな演奏に支えられ、素っ気なく口からこぼれ出る寺山修司の言葉は、どう聴いてもPhewの世界観のように思えます。
 そして続く『時には母のない子のように』。前曲と同様にPhewの言葉のように聴こえてきます。ノー・フューチャーな諦念に隠されたパンキッシュな衝動を感じる名カヴァーでありましょう。
 
 選曲的に驚いたのは、エルヴィスの『Love Me Tender』。ところがこれが決して受け狙いではない。
 低音でぶっきらぼうに歌う響きはどうしようもなく虚無的であり、このアルバムの本質を表しているようです。
 底知れぬ恐怖を覚えながら何度もリピートしてしまう、一番のお気に入り曲であります。
 
 『Thatness And Thereness』は坂本龍一「B2-UNIT」からのカヴァー。
 ピアノを中心としたシンプルな演奏にひっそりと鳴り響くノイズ音。ブリジット・フォンテーヌ的にフレンチ・アヴァンギャルドな歌声もまた好し。
 
 『ふしぎな日』(フォークル)は、緩いノイズと微妙な南国モンド感にどんより覆われていく。
 さらにどんよりとしたサイケ感でいっぱいの『どこかで』(永六輔&中村八大)。生温いアシッド感は血生臭くもあります。
 
 『素晴らしい人生』や『夢で逢いましょう』(両方とも中村八大)は、ぼんやりポスト・ロック風だが妙に心地良くもあり、根底にはグッドタイム・ミュージックな趣もある。これはジム・オルークっぽいね。
 『青年は荒野をめざす』(またフォークル)を聴くと、そうそう、Phewであればこんな風にパンキッシュな曲も聴きたいのよ、とか思ったり。ファン・サービス?