本日の1枚 blue marble

 blue marble / ヴァレリー (CD)

ヴァレリー

ヴァレリー

 
 本日、ついに待望のアルバムがリリースされました。
 帯に書かれているお二方の言葉がこの素敵なアルバムの本質を表していると思うので、下手なことを書かずにその言葉をそのまま引用しよう。

中南米のポップなグループのようで、実にややこしく心地よいのだ。
米西海岸の光を浴びたブライアン・ウィルソンの日陰を感じる。
  --- 鈴木慶一
アルバムを聞けば聞くほど、詰め込んだアイディアを発見。
  --- アン・サリー

 
 まずは冒頭の『スティール・バンド・トリニダード』。タイトルどおり南国感あふれる曲でありますが、その背後には細野晴臣ヴァン・ダイク・パークスなどの姿が見え隠れします。
 ワルツなリズムにステォール・パンてのがいいなぁ。特に中盤終わりにコロコロとリズムが変化する部分のくすぐったい心地良さがすばらしい。
 そしてラストの子供コーラスに胸キュン。決して上手くはない無垢な歌声は、エイブラムス先生やラングレー・スクールなんかと同質で、子供ものファンの心をくすぐる絶妙なバランスなのです。
 
 『惑星』は、ピチカート的にハッピーなソフロ感と同時に、アレンジのセンスにはカンタベリー的なものも感じたり。
 スッと終わってしまう微妙な物足りなさも、きっと計算されたものでありましょう。
 
 先にPVが発表されていた『街を歩くソルジャー』は、突き抜けるようでクネっと折れ曲がるポップさがお見事。
 躍動感あるドラムの硬質さはちょいと高橋幸宏っぽいと思う、そしてまたこれも爽やかキュートなアレンジが絶妙である。
 
 『降り続く雨はいつでも』は、フニャフニャと緩やかなカラフルさのサイケ感が夢見心地なバラード。
 ぼんやりとかすんだ浮遊感はミナス的であります。というか、アルバム全体に漂う浮遊感も同様なんだけど。
 
 そして以前から大好きな『懐かしのバイアーナ』。
 リズムはサンバを基調としているし、オルガンの旋律はちょいとワルター・ワンダレイ風であったりとか、確かにブラジリアン・ポップしてるんですが、元ネタは「燃ゆる初恋」だとか。
 例えば「踊りだせ、バイアーナ」て部分でカクっと突っかかるとこなんかに稀有なポップ・センスを感じます。
 あと、この曲のオオノさんの歌声が一番好きなんです。キュートだがちょっと意地悪な雰囲気の妙が最も楽しめるのではないかと思ってます。
 
 『未来都市ドライブ』は、輪郭が明確な曲調でアルバムをキリッと引き締めます。
 堅いのか柔らかいのか聴き方によってイメージが変わるリズムがまた好いなぁ。
 
 『パーティーの方程式』は、イントロのキュートな電子音が素敵でいきなりグッときます。
 けれどそのすぐ後に続くベース・ラインが、おっとこれはまるでリキッド・リキッドだ。そしてサビでは小粋にブラジリアン・フュージョンなアレンジに。
 でも気付けばなんか背後でピコピコ鳴ってたりとか、音楽の引き出しの広さとそれらを凝縮するセンスの凄みを感じます。
 
 『夜間遊泳』は、アンビエント・ハウスに始めるが、気付けばタブラが響いてたりして何か不穏な空気が。
 どんよりとドリーミーな曲調に、「投げ出した」「散らかした」と言葉でリズムを刻ませる手法がまた好い。そしていつの間にかリズムが荒れ狂い、スッと終わってしまうのがまた。
 
 『ブルーバードとモンスター』は、マーティン・デニー、というかデニーに影響を受けたニュー・ウェーヴ系アーティストな雰囲気が好いなぁ。
 南国風のアレンジになぜかジャーマン・ロック的な要素が絡んだりとか、緩やかな見かけに反して聴くほどに発見のある曲であります。
 
 『スターフィッシュ』は、「ペット・サウンズに入ってそうな曲をイメージした」とショックさん本人に聞いたのですが、まさにそんな曲。
 華麗なストリングスに始まり、柔らかキラキラなメロウ・フローターへ。夜の浜辺な浮遊感が素敵であります。
 
 最後のタイトル曲『ヴァレリー』はなんとインスト。
 ヴォーカル・アルバムをインストで締めるのか! そしてこの曲の転調に次ぐ転調の凄まじさといったら!
 いわゆる万華鏡的にカラフルさが産み出すサイケ感は、こりゃもう「スマイル」な世界であります。
 おっと、ラスト2曲のせいか、ブライアン・ウィルソンな印象がどうしても頭に残ってしまいますね。
 
 
 街を歩くソルジャー
 
 
 懐かしのバイアーナ