本日の1冊 原稿零枚日記

原稿零枚日記

原稿零枚日記

 『猫を抱いて象と泳ぐ』から1年半振りとなる本作は、日記形式で不条理な世界を描く連作。
 苔専門の料理店に始まり、小学校の運動会にまぎれ込む「運動会荒らし」、小説を下読みする「あらすじ係」などなど、あくまでも日常を描いているなかでシュールな世界観に浸食されていく様は、ユーモラスでありながらも深い哀しみが滲み出てきます。
 そして著者特有の硬質な文章はやはり美しく、繊細に写実するなかで映像的に真実を映し出すような印象を受けます。特に、子泣き相撲を見物する一編の描写が好きだなぁ。
 「盆栽フェスティバル」とか「子宮風呂」とか、言葉遊び的な発想から生まれる幻想譚に好みは分かれるでしょうが、これも僕は好きなほうです。