本日の1冊 f植物園の巣穴

f植物園の巣穴

f植物園の巣穴

 歯痛に苦しみ始めた夜から、植物園に勤める男の周りで頻発する奇怪な現象。そして男は異界に迷い込む。
 幼いころの「ねえや」だった千代、妻だった千代、レストラン店員の千代。
 異界の中で男は、カエルのような子供とともに「千代」を探し求めて彷徨い続ける。
 時間と空間が歪む世界の中で、曖昧に揺らぐ過去の記憶がやがて明確に浮かび上がってくる。
 ラストの展開は安直でありますが、それまでの幻想譚が一気に現実問題へと凝縮される流れはミステリの謎解きのような爽快感もある。
 寒々しい、いや空恐ろしい世界観の中で、挙句に導かれた愛情の光は暖かい。