本日の1枚 Caetano Veloso

 前々回に掲載したアート・オブ・ノイズの盤について、オーケストラ・ヒットのことを書こうと思って忘れてました。
 オーケストラ・ヒットとは、オーケストラの楽器が一斉に音を鳴らしたらこうなるよ、てシンセでシミュレートしたワンショットの音色のことです。単なる効果音として使われていたオーケストラ・ヒットを、曲を構成する重要な要素としてバンバン使っていたことも、アート・オブ・ノイズの楽曲の特徴でありました。
 さて、そんなオーケストラ・ヒットを取り入れたブラジルの盤が↓これ。ブラジル音楽を全く理解していなかった頃に聴いたので、ちょっとした驚きを感じていました。
 ちなみに『ムジカ・ロコムンド』のレビューには、「今はもう誰も使っていないオーケストラ・ヒットが・・・」と書かれています。確かに今聴くと少々ダサイ気がするけど、そんな言い方されたら使ってる人が気を悪くするよ。

フェラ・フェリーダ

フェラ・フェリーダ

 長きに渡りブラジルの音楽をリードしてきたカエターノ・ヴェローゾが'87年にリリースしたアルバム。
 かつてトロピカリア・ムーヴメントを牽引し、ブラジル音楽に新しい風を送り続けたカエターノが世界進出を狙い出したのは遅く、'86年になってやっと米国に向けて腰を上げました。その翌年にリリースされたためか、この盤にはさらにひと皮剥けようとあがいているような気負いを感じます。その混沌とした未完成さからこぼれる音楽の可能性がとても魅力的に思えます。
 といっても、ジタバタあがいている訳ではなくて、ジッと鋭い視線を様々な方面に注いでいるような感じ。シンセをバンバン多用してダサくなっちゃった他のMPBアーティストと違い、オーケストラ・ヒットなどの流行技術を土着的なブラジルの感性で処理している点はさすがで、なんだかクールで知的な香りがしてくるんですよ。
 『Eu Sou Neguinha?』はアート・リンゼイに捧げた曲で、なぜかレゲエです。ンチャンチャしたリズムに呑気な歌声が響いているのに、なぜかピリピリした緊張感が伝わってきます。『Vamo Comer』はなぜかソカ風で、こちらは本気でハッピーなカリビアンな曲。『Giulietta Masina』はフェリーニの奥さんで女優のジュリエッタを歌った曲で(カエターノはフェリーニの大ファン)、カエターノらしいシンプルで重い音の粒がとても美しい。