本日の1枚 ASA-CHANG & 巡礼

 ASA-CHANG & 巡礼 / 影の無いヒト (CD)

影の無いヒト

影の無いヒト

 
 commmonsからリリースされた、4年振りとなるアルバム。
 坂本龍一原田郁子、さらに宮藤官九郎や(モデルの)太田莉菜などが参加しています。
 ジャケどおりに漆黒な印象のアルバムで、ポップな要素がどんどん排除されていっているようですが、随所にユーモラスな感覚も散りばめられています。ただそのユーモア・センスが逆にまたカオスな世界観を高めていたりして、まぁちょっと怖い楽曲が続きますね。
 
 音楽のあり方を問うような闇への志向、タブラのリズムを軸に言葉を構築していく手法の見事さなどは、彼方此方でいろんな方が絶賛されているとおりですね。久々に重く受け止めるべき音楽に出会えたと思います。
 せっかくなので、どうしても気に入らない点を1つ。
 サンプリングで紡がれる「声」や「音」の中に、なんかわざとらしく聴こえてくるモノがあるのです。
 例えばタイトル曲の『影の無いヒト』。これは9分近い大作で、とにかく痛々しい空気感に聴いていて不安を掻き立てられる、悪意と毒に満ちた傑作であります。なんですが、「影、影、、、」てサンプリング・ヴォイスがどうにも気に入らないんですよ。
 せっかくの世界観の中に「浮いて」聴こえるようで、こういうのがちょっと残念なのです。まぁ単に好みの問題なんですけどね。
 
 冒頭の『コトバを連呼するとどうなる』は、『つぎねぷ』同様に藤井貞和の詩から引用した言葉らしい。軍隊のような足音リズムやサンプリングの凶暴さなどは、ジム・フィータスあたりを彷彿とさせます。
 『くるみ合わせのメロディ』の場末な質感、ディスコ・パンク的な『ウーハンの女』での昭和なユーモア・センスなどからは、野暮ったい、通俗的な志向を強く感じます。ポップな要素が排されていると前述しましたが、あくまでも大衆に背を向けていない姿勢には非常に好感が持てます。
 タブラが激しく打ち鳴らされる『Jump!』、サンプリング・ヴォイスが音に浮かずに絡み合ってる『影の無いヒト 〜Lehera_tronics MIX〜』、On-U系なダブ・サウンドにタブラと原田郁子の声がアシッドに響く『12節 〜24..22...46 Remix〜』の後半3曲の流れがお気に入りなのでした。