本日の1冊 わたしたちに許された特別な時間の終わり

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

 中編「三月の5日間」「わたしの場所の複数」の2つを収録。
 まずは、各登場人物の視点になったり、神視点になったりと、同一文章の中でも視点が定まらない奇妙な技法に面食らいます。
 ところが、この文章のズレによる世界観の歪みが、なぜかリアルさを生み出しているのです。
 明確に否定的な観念を持つでもない厭世感、いや単に思想なき虚無感というべきか、そんな感性がこの奇妙な文章技法によってリアルに描かれてますね。
 ちなみに僕は「わたしの場所の複数」にとても惹かれました。
 身体の動き、心の動きが異常なほど細かく記述されます。淡々と、ダラダラと。
 その微細な動きから発せられる、穏やかな呪詛が身に沁みます。