本日の1枚 Jim O'Rourke

 Jim O'Rourke / All Kinds Of People 〜Love Burt Bacharach〜 (CD)

 
 ジム・オルークによるバート・バカラックのトリビュート・アルバム。しかも、歌い手を務めるのは細野晴臣カヒミカリィやくしまるえつこ小池光子など、ツボをついた日本人シンガーばっかり。
 ジム・オルークだったらこんな音だろうか、と聴く前にあれこれ想像していたんだけど、1曲目の『Close To You』からその想像の範囲外の音で驚かされました。
 ヴォーカルは細野晴臣。硬質なドラムとピアノの音色によるシンプルなアレンジからは、ヒリヒリとした緊張感と冷たい眼差しを強く感じます。その冷ややかな世界観も細野氏の甘渋な歌声もとても素敵で、いきなり魅了されてしまいましたよ。
 なんというか、バカラックサウンドからイメージしがちな甘くソフトで華麗な音を削ぎ落としても、残った世界観はやはりバカラックのものでありました、みたいな感じ。
 
 続く『Always Something There To Remind Me』(サーストン・ムーア)では、ややオルタナティヴ的でありながらもいかにもアメリカン・ポップな雰囲気だったり、
 『You'll Never Get To Heaven』(青山陽一)や『Don't Make Me Over』(小坂忠)などでは、声質をバカラックの世界観にピッタリと当てはめています。
 そう、あくまでもバカラックサウンド、いや古き良き米国ポップスに対する憧れと敬意をしっかりと感じました。しかしながら、それを見つめる目線は冷やかで、そして距離感があります。
 
 例えば、坂田明中原昌也が掛け合い漫談を展開する『After The Fox』。なんだかこの曲の音に、大昔の細野作品みたいな雰囲気を感じました。
 ジム・オルークの米国ポップスへの姿勢を表現するためになぜ日本人シンガーを起用するのか、このへんが要点である気がしました。
 
 やくしまるえつこのウィスパー・ヴォイスがたまらない『Anonymous Phone Call』、肩の力を抜いてもクールなカヒミの歌声がたまらない『Do You Know The Way To San Jose』の2曲は、期待を上回る良品でした。
 特に後者は音数の少なさとその間の取り方が素晴らしいのですよ。
 
 お気に入りは、小池光子の『Raindrops Keep Fallin' On My Head』。暖かな雰囲気の中にもヒリヒリした空気が吹き抜けるような感覚が素敵だなぁ。
 秘かにグルーヴィなドラムも好いし、ちょいと南国風なアレンジもまた好し。