本日の1枚 Kahimi Karie

 Kahimi Karie / It's Here (CD)

It’s Here

It’s Here

 
 前作「Nunki」から3年数か月振りにリリースしたアルバム。
 大友良英ジム・オルーク山本精一、山本達久がレコーディングに参加。宅録ライヴ感も強いですが、同時に完成された演奏の妙も味わえます。
 そしてカヒミの歌声は、、、
 まずオープニングの『Nouveau Paradis』を聴くと、声だけでなくサウンド面も昨今のシャルロット・ゲンズブール風であります。しかしアルバムはこの後、あくまでも現在進行形なカヒミのものへと展開していきます。
 過去に試みた様々なスタイルのウィスパー・ヴォイスから脱却するのでもなく、また踏襲するのでもなく、あくまでも自然に伸びやかに発声している感じで。
 前作「Nunki」ではカヒミの歌声にピリピリと張り詰めたような空気を感じたのですが、それが吹っ切れたとか肩の力が抜けたとかいうんじゃなくて、ただ自由に音楽に向かっているように思えます。
 
 そして音楽性も前作「Nunki」と同質ながら、例えばフリー・ジャズ的な志向はよりナチュラルに消化され、アヴァンギャルドさとポップさとの境界を無効とすることに成功しています。
 出産を経験したから、とは何となく言いたくありませんが、母性的な力強さと穏やかさ、そしてそれらを礎として直感的に音楽にダイブしていくような心地良さを感じます。
 
 緩やかで静謐な歌声が響く『Time Travelers』から、『The silence in a storm』で一気にディープに沈み込む流れが好きです。オリエンタル風味な音やアフリカン・リズムで構成される実験的要素の強いこの曲に、なぜか伸び伸びとリラクシンな空気を感じるのです。
 そして夜の暗闇を感じる『Love is the fruit』へ。漆黒の彼方に広大な大地が広がるイメージ。
 そのまま同じ流れでありながらキュートな躍動感のある『Animal Architecture』へと続く。『Love is the fruit』の暗闇が明けはじめ、動物たちの動きが目に入ってくるイメージで、こりゃもうタイトルどおりの曲ですな。
 
 ファンキーな動きへと転じる『Monkey & Me』は、こっちのほうがわかりやすく動物的だぞ。シタールなどの音色も気取らず実験的で好い。
 一転してピアノを中心としたシンプルな『I Come Here』。ここではカヒミの歌声の表現力に今さらながら感心する。
 『Ce monde est comme une horloge』は、音と無音のはざまが生み出す空気感が素晴らしい逸品。
 
 『All』は、もちろん彼女の歌声も素敵ではありますが、後半の即興演奏部分にもしびれました。演奏の巧さではなく、アルバム・トータルの世界観に見事に同期しております。
 ラストの『Our bridge in the sunshine』は、力強くもリズムを刻むつぶやきヴォーカルに、無作為に前進を続ける生命力を感じます。
 
 
 Nouveau Paradis