本日の1枚 二階堂和美

 二階堂和美 / にじみ (CD)

にじみ

にじみ

 
 年末になると彼方此方で見かける今年のベスト10的な企画で、しばしば登場しているこの盤を聴いてみました。
 かなり多様なアルバムではあるものの、基本的には昭和歌謡な作りの楽曲がずらりと並んでいます。しかし、不思議なことに懐古主義な匂いが全くしてこないのです。むしろ、エレクトロニカやフリーフォークといった流れを通過していることを強く感じてしまいます。
 例えば『説教節』なんてモロに演歌調にコブシを効かせて歌ってたりするんだけど、数多の昭和歌謡風な歌い手さんとは決定的に何かが違うのだ。でも、確かに昭和歌謡ではあるのだ。
 昭和歌謡から受け継いでおくべき遺伝子のみを見事に、テン年代のポップ・ミュージックに伝えたようなそんな感じがするのです。
 
 冒頭の『歌はいらない』から、儚さと力強さ、キュートさ、グルーヴィさを溢れさせる歌唱の素晴らしさに惹かれます。薄いけれどドーンとディープな音も好いし。
 ピアノと歌声を中心にしたシンプルな『女はつらいよ』は、前述のとおり昭和歌謡的だけど明らかにエレクトロニカ以降の感性を感じる逸品です。
 ファニーな歌声が軽快に響く『あなたと歩くの』や、フニャフニャな歌声がジャジーな演奏とともに跳ね上がる『PUSH DOWN』、ちょいと南国テイストなリズム歌謡『Blue Moon』、キュート&グルーヴィなジャズ歌謡『とつとつアイラヴユー』、ちょいとモンドなサンバ歌謡『お別れの時』など、曲によって歌い方を巧みに変えているのがまた凄いところ。
 また、『ネコとアタシの門出のブルース』なんてタイトルからして素敵なんですが、どの曲も歌詞が好いのです。実は僕はあんまり歌詞を気にせずに音楽を聴いてるんですけど、久々にじっと歌詞に耳を傾けてしまいました。
 ちなみに一番のお気に入り曲はラストの『足のウラ』。投げやりなスキャットがブルージーに聴こえてきます。
 
 
 女はつらいよ