ここ数日で読んだ3冊

 「椿説泰西浪曼派文学談義」

椿説泰西浪曼派文学談義 (平凡社ライブラリー)

椿説泰西浪曼派文学談義 (平凡社ライブラリー)

 ロマン主義時代の英国文学から美術、思想、歴史について、恐ろしいまでの知識を駆使し、精密に組み上げられたまさに「地図」。
 その膨大な知識の洪水と、コールリッジにブレイク、さらにワーズワースなどまでを総括する視点の独自性は溜め息ものであり、実に「面白い」のです。聞いたこともない単語や難解な言い回しを何気にポンッと連ねられる文章の妙に、知識欲をかき立てられます。
 「すこしイギリス文学を面白いものにしてみよう」という序文から挑発的であるが、辛辣な物言いさえ洒落た雰囲気で包んでしまうセンスもまた好いなぁ。
 
 「冥土めぐり」
冥土めぐり

冥土めぐり

 過去にとらわれる母、職につかず借金を重ねる弟、病で障害者となった夫。どん底の主人公は、母の過去の栄華の拠り所となっているホテルへと旅する。そこで喪失の連鎖を断ち切るあり方を、能天気で無口な夫の佇まいに見出す。
 そこはかとない寂寥感は素晴らしいんだけど、人物像にリアルさが感じられないので読後に何も残らない。それもわざとなのか。
 もう1編収録されている「99の接吻」はすっごく面白かったですよ。
 
 「ティンカーズ」
ティンカーズ (エクス・リブリス)

ティンカーズ (エクス・リブリス)

 時計の修理屋、ジョージが死の床で見る過去の記憶。現実と夢が交錯するなか、静かに死へと近づいていく。
 自分の記憶と父の記憶、祖父の記憶がコラージュされて入り組む、まるで叙事詩のような物語は、時計の如く機械的な緻密さと同時に、幻想的な美しさも湛えている。